医療のデジタル化のもたらす未来と、病院経営のその先へ メドコム主催セミナー
医療機関専用スマートフォンの開発・販売などを⼿掛けるメドコムは、8月2日にATカーニー株式会社のシニアパートナーでヘルスケアプラクティスのアジア地区代表、後藤良平氏によるセミナーを開いた。テーマは「医療のデジタル化のもたらす未来と、病院経営のその先へー」医療業界におけるデータ統合と可視化の重要性、スマートフォンの活用によるコミュニケーションの強化、医療従事者の業務負担の軽減の必要性が共有された。
また、医療従事者が必要以上に業務を背負っているとの課題感が共有され、業務の再配分が必要であるとの意見が出された。
海外の医療/病院DX進展と、 先進的な取組事例紹介
後藤氏は、医療DXと病院経営の進化について、アメリカでの医療DXの実態を基に、日本での検討事項を考えるべきだと主張した。また、現場の課題感と医療DXとが日本では分離されて議論されていると指摘。日々の病院のオペレーションを見直し、医療従事者が取り組むべき業務とそうでない業務を仕分けることで医療DXが初めて実現すると述べた。
さらに、医療の事務業務がブラックボックス化していると指摘し、医療のDXをデジタル観点だけでなく、オペレーションのモデルを変える観点から検討するべきだと提案した。
また、医療システムの改革については特に、医師の評価体系に早期診断や予防行動の徹底が含まれること、そして不要不急の患者を病院外で治療することが評価項目に加えられたことを挙げ、カイザー(Kaiser Permanente)が全米の医療システムの中で効率的であり、医療のアウトカムを下げずに効率化を実現したシステムと評価されていることを紹介した。
さらに、医師や患者に対して予防医療を促進するための具体的な金銭的なインセンティブが設けられていることを解説、医療DXの根底にあるのは、適切な治療を適切なタイミングで適切な人に提供するための現状の把握に投資をし続けることだと述べた。
日本の病院経営を取り巻く外部環境変化と、改革推進上の要諦
日本では多様な医療・健康データをプラットフォーム上で繋げて共有・活用するための基盤整備が政府主導で推進中であることを踏まえ、北九州市では、介護DX導入・運用方法のモデル化により「時間を生み出す介護」を確立し、介護サービスの質向上・生産性向上を実現している事例を挙げた。
また、今後の医療環境の変化に対応するために、病院の専門性を特化させ、地域医療全体での役割分担や連携ルールを考え直す必要があると提言した。
後藤氏は、医療のDX経営改革におけるボトルネックと改革が必要な点について6つのポイントを提案した。具体的には、
①ビジョンや戦略の現場への浸透
②実態の可視化
③デジタル化推進のための人材リソース
④財源の確保
⑤現場の抵抗感の払拭
⑥コミュニケーションの重要性
を強調した。
また、医療の効率化がトップラインの増加に繋がると述べ、医療従事者が不必要な業務を省くことで患者への接触時間が増え、病床の稼働率が上がると指摘。DXの成功のためには、戦略とプロセス基盤それぞれでデジタル化の費用対効果を補足するKPIの定義が必要であると述べた。そして、患者や従業員の満足度と効率化を組み合わせて考えることの重要性を強調し、医療現場での改革のボトルネックとしてコミュニケーション不足やリーダーシップ不足を指摘した。システム導入に際しては、その目的や結果を明確に定義し、追跡することが必要と述べ、データ収集と分析により、業務配分の問題点を明らかにすることが重要との見解を示した。
最後に、経営のビジョンと現場のビジョンをリンクさせる仕組みの必要性を強調し、医療財源の制約の中で、質の高い医療を実現するためには、病院の従業員が担当すべき業務とそうでない業務を明確にし、タスクシフトを進めることが重要であると述べた。
医師の働き方改革が急ピッチで導入された結果、タスクシフトが不均衡になり、薬剤師などの負担が増えるなど本末転倒の状況が生じており、病院に関わる全ての人が何をすべきかのルール設定が必要で、これがないと過剰労働などの問題が解決しないと主張。組織改革には経営者のコミットメントと情報発信力が重要で、現場の現実感を抑えつつビジョナリーであることが求められると語り、経営者が変わると取り組みが加速するケースもあるため、リーダーシップと情報発信を続けることが改革の鍵であると結論付けた。